安芸市瓜尻遺跡の保存と活用を求める要望書

                                 2021年5月23日
文化庁長官 都倉俊一 様
高知県知事 濵田省司 様
高知県教育委員会教育長 伊藤博明 様
高知県議会議長 森田英二 様
安芸市長 横山幾夫 様
安芸市教育委員会教育長 藤田剛志 様
安芸市議会議長 尾原進一 様
                              文化財保存全国協議会  
                                  代表 小笠原好彦
                                  代表 橋本 博文

   安芸市瓜尻遺跡の保存と活用を求める要望書

 安芸市瓜尻遺跡は、7世紀代の中央政権による地方経営の実態を解明するうえで、その遺構を良好に遺している全国的にも数少ない貴重な古代遺跡です。
 発掘調査によってみつかった掘立柱建物跡、総柱建物跡や円面硯、刀子からは倉庫群を含む官衙的性格が、また方形区画とその内側に巡る柱穴列に囲まれた井戸跡と建物跡からは「聖なる空間」での国家的祭祀の執行が窺えます。また、交通の往来を示す運河跡や入り江状の波止場跡、それに西側未調査区に推定される寺院跡をあわせると、仏教伝来や国家的祭祀の執行、官衙の設置など、大化改新(645年)、白村江の戦い(663年)、壬申の乱(672年)といった教科書にある7世紀代の歴史的な出来事が反映された遺跡だと考えられます。
 これらにはこの地域が古代国家に組み込まれていった様相が示されており、その具体的歴史像が安芸平野の瓜尻遺跡において確認されたことは、古代国家形成過程を追究するうえで極めて重要で、学術的に高く評価できます。また、このような寺院跡、祭祀跡、運河・波止場跡、官衙跡といった複数の要素で一体的に構成される7世紀代の遺跡は、高知県内はもとより、全国的にも例がなく、その希少性も積極的に評価すべきです。そして、これらの評価に基づいて、高知県および安芸市当局は、瓜尻遺跡を県民・市民の宝として恒久的に保存し、その価値を高めるために活用する責任があると考えます。
 この遺跡は津波災害を想定した中学校移転を目的に発掘調査をはじめたと側聞しています。しかし、調査によって検出された遺構の遺存状態が極めて良好なことがわかりました。このように遺存状態が良く、他に例がない貴重な遺構を破壊して校舎建設用地とするよりは、現状保存し、未来を担う子どもたちの身近な歴史教材として、また地域の皆さんに末永く愛される史跡公園として隣接する寺院跡を含めての整備・活用が望まれます。さらに瓜尻遺跡を広く人類共有の文化遺産として捉え、観光資源として活用することも将来にわたる地域経済活性化の活力として期待されるところです。その意味で災害回避と文化遺産保存との両立を目指した、全国に先駆けた模範となる判断と取り組みが期待されます。
 このように瓜尻遺跡は、7世紀代の地方における古代国家形成期の具体的様相を示す遺構群が良好に遺された重要かつ希少な遺跡であり、特に重要な遺構群の現状保存によって地域での歴史学習や、観光資源としての活用が待望される文化遺産です。貴機関におかれましては、まずはこのような瓜尻遺跡の調査成果を正しく認識し尊重したうえで、史跡指定など、現状保存のための適切な措置と、将来を見据えた活用施策を採られますよう、強く要望いたします。
                                    以上

2021年05月23日