大阪府島本町、越谷遺跡御所池園地状遺構の緊急調査と、水無瀬離宮を中心とした島本町の文化遺産保護と活用を求める要望書

                                 2022年3月2日
島本町長  山田絋平 様
大阪府知事 吉村洋文 様
大阪府教育委員会教育長 橋本正司 様
阪急阪神不動産株式会社 代表取締役社長 諸冨隆一 様
株式会社フジタ 代表取締役社長 奥村洋治 様

                       環境・歴史・景観しまもと 代表 厚東 隆
                       文化財保存全国協議会
                            代表委員 小笠原好彦 橋本博文

   大阪府島本町、越谷遺跡御所池園地状遺構の緊急調査と、水無瀬離宮を中心とした
   島本町の文化遺産保護と活用を求める要望書

 大阪府三島郡島本町は、藤原定家の『明月記』によると、後鳥羽上皇がこの地に水無瀬離宮を造営し、頻繁に訪れていると記されています。水無瀬離宮は一か所ではなく町の広範囲にわたって存在したことが、以前から研究者によって指摘されています。
 2014年、小野薬品新社屋建設に伴う発掘調査で、西浦門前遺跡が発見されました。これは、現在の水無瀬神宮の場所にあった水無瀬離宮本御所が1216年に洪水により倒壊し、翌年に再建された御所のうち、後鳥羽上皇が地形を生かして造営した山上の御所の一部と考えられています。
 さらに2020年、JR島本駅西側の開発に伴い、室町時代から田畑として利用されていた13ヘクタールの開発が始まり、同年9月、この地区の尾山遺跡から拳大の青い石を敷き詰めた池泉跡が発掘されました。他に類を見ないと専門家も目を見張る見事な遺構で、先に発見された西浦門前遺跡と意匠の面でも共通点があり、関連した施設とも考えられ、その美しさや使われ方で高い注目を浴び、10月3日の現地説明会には多くの見学者が訪れました。しかし、すぐに破壊され、その場所には地下式の調整池が造られてしまいました。
 その後2021年3月末、中国に渡り三蔵法師の弟子となった道昭が造営した可能性のある貴重な7世紀末の瓦窯跡の一部が発見されました。しかし、現地説明会や保全協議を図る措置もとられず、町民に知らせることもなく4月半ばにこれも破壊されました。
 2021年9月28日、日本庭園学会会長大澤伸啓氏他が「水無瀬離宮を活用した地域づくりへ緊急提言」を提出するため来町されました。この提言内容は、以下の通りです。
 JR島本駅西側、桜井地区に越谷遺跡が位置します。この越谷遺跡の御所池南側開発区域には岬状の州浜と考えられる地形が遺っており、「水無瀬離宮の園池跡」の可能性が以前より指摘されていました。さらに御所池と州浜のある池跡が元は一体であること、後鳥羽上皇の時代に再整備された可能性があること、その形は鎌倉幕府三代将軍源実朝の造営した鎌倉市の伝大慈寺池跡と相似形であることなどから、実朝と後鳥羽上皇との交流を示す遺跡である可能性があることがわかってきました。そのような事実を解明する前に、池跡が消滅の危機にあるため緊急発掘調査を要求されたものです。そして町内にある水無瀬離宮関連遺跡の保全とそれらを活用した地域づくりを求め、学会が全面的に協力するという内容でした。
 御所池からは淀川の対岸に、国宝石清水八幡宮を有する男山が見えます。池の近くには平安時代後期から鎌倉時代の女流歌人で石清水八幡宮護国寺別当・光清の娘の待つ宵小侍従の墓があり、石清水八幡宮との深い関係を偲ばせます。
 中秋の名月の時、男山から昇る月が御所池に映りながら一夜移動する光景は、平安、鎌倉時代の貴族たちを楽しませたことでしょう。その光景を今でも見ることができる希少な場所がここには残っているのです。
 名神高速道路より山側にも六条殿という地名が残っており、後鳥羽上皇皇子の雅成親王の別荘であった可能性もあり、一帯は地形を生かした平安から鎌倉時代の貴族皇族たちの別荘を有する庭園都市ともいうべき場所であります。
 その面影がいまだ残っている希少なこれらの場所は、文化的景観として、島本町のみならず、未来をになう子どもたちや世界中の人々に見て頂けるよう、日本の宝として後世に残す責任が私たちにはあると思っています。

 そのうえで、私たちは以下の3点を強く要望いたします。
1,御所池南側の州浜と考えられる場所である、越谷遺跡御所池園池状遺構は、現存する唯一の後鳥羽上皇が造った池跡である可能性があります。開発のために破壊される前に早急に本調査を実施してください。
2,水無瀬離宮関連遺跡を島本町の誇るべき文化遺産としてまちづくりに活用するとともに、開発においてはその点を評価したうえで計画し、事前調査と可能な限り遺跡の保存に努めてください。
3,島本町にかろうじて残る景観は、当地の歴史的特性が生み出した文化的景観であると考えます。この文化的景観と遺跡をともに保全できるように努めてください。

 

 

                                  2022年3月2日
文化庁長官 都倉俊一 様

                      環境・歴史・景観しまもと 代表 厚東 隆

   大阪府島本町、越谷遺跡御所池園地状遺構の緊急調査と、水無瀬離宮を中心とした
   島本町の文化遺産保護と活用を求める要望書

 大阪府三島郡島本町は、藤原定家の『明月記』によると、後鳥羽上皇がこの地に水無瀬離宮を造営し、頻繁に訪れていると記されています。水無瀬離宮は一か所ではなく町の広範囲にわたって存在したことが、以前から研究者によって指摘されています。
 2014年、小野薬品新社屋建設に伴う発掘調査で、西浦門前遺跡が発見されました。これは、現在の水無瀬神宮の場所にあった水無瀬離宮本御所が1216年に洪水により倒壊し、翌年に再建された御所のうち、後鳥羽上皇が地形を生かして造営した山上の御所の一部と考えられています。
 さらに2020年、JR島本駅西側の開発に伴い、室町時代から田畑として利用されていた13ヘクタールの開発が始まり、同年9月、この地区の尾山遺跡から拳大の青い石を敷き詰めた池泉跡が発掘されました。他に類を見ないと専門家も目を見張る見事な遺構で、先に発見された西浦門前遺跡と意匠の面でも共通点があり、関連した施設とも考えられ、その美しさや使われ方で高い注目を浴び、10月3日の現地説明会には多くの見学者が訪れました。しかし、すぐに破壊され、その場所には地下式の調整池が造られてしまいました。
 その後2021年3月末、中国に渡り三蔵法師の弟子となった道昭が造営した可能性のある貴重な7世紀末の瓦窯跡の一部が発見されました。しかし、現地説明会や保全協議を図る措置もとられず、町民に知らせることもなく4月半ばにこれも破壊されました。
 2021年9月28日、日本庭園学会会長大澤伸啓氏他が「水無瀬離宮を活用した地域づくりへ緊急提言」を提出するため来町されました。この提言内容は、以下の通りです。
 JR島本駅西側、桜井地区に越谷遺跡が位置します。この越谷遺跡の御所池南側開発区域には岬状の州浜と考えられる地形が遺っており、「水無瀬離宮の園池跡」の可能性が以前より指摘されていました。さらに御所池と州浜のある池跡が元は一体であること、後鳥羽上皇の時代に再整備された可能性があること、その形は鎌倉幕府三代将軍源実朝の造営した鎌倉市の伝大慈寺池跡と相似形であることなどから、実朝と後鳥羽上皇との交流を示す遺跡である可能性があることがわかってきました。そのような事実を解明する前に、池跡が消滅の危機にあるため緊急発掘調査を要求されたものです。そして町内にある水無瀬離宮関連遺跡の保全とそれらを活用した地域づくりを求め、学会が全面的に協力するという内容でした。
 御所池からは淀川の対岸に、国宝石清水八幡宮を有する男山が見えます。池の近くには平安時代後期から鎌倉時代の女流歌人で石清水八幡宮護国寺別当・光清の娘の待つ宵小侍従の墓があり、石清水八幡宮との深い関係を偲ばせます。
 中秋の名月の時、男山から昇る月が御所池に映りながら一夜移動する光景は、平安、鎌倉時代の貴族たちを楽しませたことでしょう。その光景を今でも見ることができる希少な場所がここには残っているのです。
 名神高速道路より山側にも六条殿という地名が残っており、後鳥羽上皇皇子の雅成親王の別荘であった可能性もあり、一帯は地形を生かした平安から鎌倉時代の貴族皇族たちの別荘を有する庭園都市ともいうべき場所であります。
 その面影がいまだ残っている希少なこれらの場所は、文化的景観として、島本町のみならず、未来をになう子どもたちや世界中の人々に見て頂けるよう、日本の宝として後世に残す責任が私たちにはあると思っています。
 私たちは何回も島本町や開発業者、大阪府に働きかけておりますが、文化庁からも指導していただきたく、以下の3点を強く要望いたします。

1,御所池南側の州浜と考えられる場所である、越谷遺跡御所池園池状遺構は、現存する唯一の後鳥羽上皇が造った池跡である可能性があります。開発のために破壊される前に早急に本調査を実施するよう、島本町と開発業者に指導してください。
2,島本町の広域に広がる水無瀬離宮を中心とした一連の歴史遺産は、町だけでなく日本の歴史財産です。人口3万2千人の町だけでは、この歴史遺産を保存し、歴史公園として整備・活用していくうえで多くの困難があります。しかるべき学術調査と遺産の保全と活用ができるよう島本町と大阪府にご指導ください。どうか国のお力をお貸しください。
3,島本町にかろうじて残る景観は、当地の歴史的特性が生み出した文化的景観であると考えます。この文化的景観と遺跡をともに保全できるよう、ご指導ください。

2022年03月12日