奈良市菅原遺跡の現地保存を求める要望書
2021年5月24日
文化庁長官 都倉俊一 様
奈良県知事 荒井正吾 様
奈良市長 仲川げん 様
奈良市教育委員会教育長 北谷雅人 様
三都住建株式会社 代表取締役 五十嵐直秀 様
文化財保存全国協議会
代表委員 小笠原好彦
代表委員 橋本博文
奈良歴史遺産市民ネットワーク
事務局長 小宮みち江
奈良市菅原遺跡の現地保存を求める要望書
特別史跡・平城宮跡の朱雀門を出て、目の前の二条大路を東へ向かえば東大寺があり、西へ向かえば東大寺の大仏建立を指揮した行基(668-749)ゆかりの喜光寺(菅原寺)があります。その喜光寺を見下ろす西側の丘陵上にあるのが菅原遺跡(奈良市疋田町)です。1981年の奈良大学による発掘調査で、「仏堂」とみられる建物の基壇が見つかっており、奈良時代の寺院跡であることが知られていました。
2020年12月にはこの遺跡で、大規模な回廊に囲まれた中心建物跡が発見されました。2021年5月20日付けで発表された報道資料等によりますと、これは柱穴が円形にめぐる類例のないもので、多宝塔や八角円堂のような円堂建築と考えられることから、供養塔として使われていた建物とみられます。みつかった瓦や土器の年代から、8世紀半ば頃の創建とみられます。また、この遺跡は、菅原寺の西の岡にあったと『行基年譜』の最後に記す「長岡院」に比定されています。そうするとこの円堂は、大仏開眼の3年前、82歳で亡くなった行基に対する廟もしくは供養塔として建立された可能性があります。この円堂跡に立つと、東にむかって二条大路がまっすぐ延び、そのむこうに東大寺大仏殿の甍、若草山・春日山の山並みがよく見えます。名僧・行基を偲ぶ供養塔としてふさわしい景観といえます。
このように、考古学的にも優れた調査成果が得られたことに加え、行基という歴史的人物を物語る重要遺跡であることが確実となった菅原遺跡は、国史跡に相当する価値を有していると評価されます。
ところが、開発業者と奈良県当局による協議の結果、住宅開発のための「記録保存」をおこなった後、市民に現地公開されることもなく、破壊される運命にあるとも報道されています。私たちは文化財保護の立場から、現状を容認することはできません。上述した遺跡の重要性を十分に勘案したうえで、その価値を末永く後世に伝えるため、まずは住宅地内の緑地として現地保存し、将来的には、市民の誇るべき遺産として整備・活用されるべきと考えます。そのうえで、次の2点を強く要望するものです。
1、菅原遺跡の回廊及び中心建物をできる限り現地保存し、これ以上破壊が進行しないようにすること。
2、菅原遺跡の現地保存を前提として、住宅開発と調和的な遺跡の整備・活用をはかること。