奈良市・西隆寺塔跡の保存を求める要望書

                               2023年2月26日
文化庁長官 都倉俊一様
奈良県知事 荒井正吾様
奈良市長  仲川げん様
                            文化財保存全国協議会
                               代表委員 小笠原好彦
                                    橋本 博文
                            奈良歴史遺産市民ネットワーク
                               事務局長 小宮みち江

    奈良市・西隆寺塔跡の保存を求める要望書

 西隆寺は、僧寺の西大寺に対する尼寺として、平城宮の西北に隣接した平城京右京一条二坊(現在の近鉄西大寺駅北東側一帯)に造営されました。奈良時代の後半、称徳天皇の時代に、西大寺の造営と並行して767年に造営がはじまり、771年に完成したと考えられています。その後、鎌倉時代までには廃絶し、再興されることはありませんでした。そのため、資料豊富な南都諸大寺に比べて、まとまった研究はほとんどなく、その詳細は不明でした。
 ところが、1970年代前半に近鉄西大寺駅周辺の開発に伴い、ショッピングセンターや銀行店舗ビル等の建設に先立つ事前調査として西隆寺跡の発掘調査が行われ、金堂・塔・東門跡などが検出されました。『西隆寺発掘調査報告』(1976年、西隆寺調査委員会)によると、その際、留意されたのが、発掘調査によってはじめて検出された寺跡の一部を破壊から守り、これを新たに建てられる造営物の中でどのような可視的状況下で保存するかにあり、開発者側と協議をしてその同意を得、不十分ではあっても寺跡の一部を近代建築の内部に展示するという、当時としては新しい保存方式を実現したということです。塔跡については、銀行店舗建設の設計を一部変更して建築用地から除外し、埋戻しの上、その上部に方形の花壇として位置を示すことになりました
 このように民間と行政の協力によって保存されてきた西隆寺塔跡について、新聞報道によれば、近鉄西大寺駅前の再開発に伴い、消滅の危機にさらされているといいます。銀行店舗として建設されたビルはすでに解体され、土地もすでに民間業者に売却されていて、来年度には新たなビル建設がはじまるということです。その際、塔跡を残して建設するということがきびしい状況にあるといいます。
 しかし、半世紀前に民間と行政が協力して保存してきた貴重な遺構です。新たな再開発にあたっても、これまでの経緯を尊重し、ぜひ遺構を保存して後世に引き継いでいきたいものです。
 つきましては、関係各機関に西隆寺塔跡の保存への措置を強く要望いたします。

2023年03月05日