大社基地遺跡群の保存および活用を求める要望書

                                  2021年4月20日
文化庁長官 都倉俊一 様
島根県知事 丸山達也 様
島根県教育委員会教育長 新田英夫 様
島根県議会議長 中村芳信 様
出雲市長 長岡秀人 様
出雲市教育委員会教育長 杉谷学 様
                               文化財保存全国協議会
                                  代表 小笠原好彦
                                  代表 橋本 博文

   大社基地遺跡群の保存および活用を求める要望書

 島根県出雲市の大社基地遺跡群は、アジア・太平洋戦争当時の海軍航空基地として、その遺構を良好に遺している全国的にも数少ない貴重な戦争遺跡です。大社基地遺跡群には、現在でも主滑走路のおよそ半分が往時の姿で遺存するほか、その周辺に配備された爆撃機「銀河」の掩体壕、爆弾や魚雷を格納した地下壕、兵舎跡、対空機銃陣地跡、基地設営隊本部が置かれた旧出西国民学校校舎などが遺されています。また大社基地の造営を担った舞鶴海軍鎮守府所属第 338 設営隊の戦時日誌には、特攻兵器である「桜花」の格納庫を設けるなど、アジア・太平洋戦争末期の本土決戦に備えた西日本最大の軍事拠点となっていた姿が記されています。
 このように、大社基地遺跡群は、主滑走路と附属施設が建設当時の原状をよく留めた大規模な海軍航空基地であり、あわせて関連する史資料が豊富なことから、戦争遺跡として全体像の把握が可能な全国的にも稀な貴重な文化財と評価できます。特に、幅60m、長さ1500mに及ぶコンクリート製の主滑走路遺構は、兵庫県加西市の海軍鶉野飛行場跡の規模を上回り、敗戦後 75 年を経た今日において他に類を見ないものです。そして、その主滑走路や掩体壕などの遺構が地域住民により学校教育、社会教育で活用され、戦争の実態や雰囲気を伝える体験的平和学習の場として寄与しています。
 しかし、大社基地遺跡群の主要構成遺構である主滑走路の大部分が民間に売却され、落札者が確定したとの報道に接しました。また4月初めには、主滑走路の一部で現状変更がはじまったとの知らせもありました。戦争遺跡として全国的にも稀有な存在で、島根県を代表する貴重な文化財であり、すでに平和学習に資しているにもかかわらず、その中心的な遺構が失われることを私たちは強く危惧します。むしろ、これらの遺跡群の総合的な学術調査に基づいた一体的な保全と活用が将来に向けて望まれます。とりわけ、特攻兵器「桜花」配備に関連する歴史的背景やそれを裏付ける遺構の確認など、史資料を駆使した学術的なアジア・太平洋戦争末期の海軍基地の実態把握は、本土決戦に備えた基地の役割や作戦の在り方を鮮明にし、より具体的な戦争の実相とそれに巻き込まれた民衆の実像に迫りうるもので、全国的にも例のない平和学習への更なる寄与が期待できます。
 もとより島根県は「島根県文化財保存活用大綱」を策定しており、本遺跡群についても大綱で謳う基本理念や取り組みに則った保存活用が望まれます。
 大社基地遺跡群は、アジア・太平洋戦争末期の海軍航空基地に関わる建物や遺構を多く遺し、地域での平和学習にも活用されている全国的にも希少な文化財です。貴機関におかれましては、まずはこのような現状を認識し尊重しつつ、主滑走路を中心とする本遺跡群の史跡指定など、現状保存のための適切な措置と将来の活用にむけた施策をとられますよう、私たちは強く要望いたします。
                                      以上

2021年04月20日